私と彼は駅に向かって歩いていた。
「電車乗る前に、荷物取って来ていい?」
「お仕事帰りなのね?」
ロッカーに寄るのだと思い、そう言うと
「んー。まあ仕事とか関係なく、いつも預けてるトコだから」
彼は駅を通り過ぎてしまった。
駅の裏にある、ビルに入っていく彼。私も慌てて後を追う。
そこはトランクルームと呼ばれる施設だった。倉庫っぽいイメージがあったけど、エントランスがあって、中は明るくて空調も効いている。オフィスの中にロッカーをたくさん詰め込んだ感じ。
彼はその一角にある、半畳大の立方体くらいの容積しかない一番小さなロッカーを開け、中から小さなキャリーバッグを取り出して着替えを詰めた。
かなり中身を詰め込んでいるらしく、荷造り中に関係ないものが溢れ出てきていた。
ダンベルとか、入浴剤とか。
知らない場所にいるせいなのか、
あまりに自分らしくない行動だからなのか。
私は現実感を失っていて、
会話もせずにひとごとのように彼の作業を眺めていた。
駅に着くとすぐ電車が来て、小走りで乗り込んだ。
何を話せばいいのかわからなかったし、相手はそんなに耳が良くはない。
無理に話題を探さなくていいのは楽だった。
駅前の商店街はもうシャッターが降りていて、街灯も心なしか暗い。
商店街のエリアは石畳になっていて、キャリーバッグを引く音がガラガラ響く。
「遠いの?」
「石畳が途切れてからすぐ。駅から10分はかからない、かな」
「へ~。家賃高そう」
「暮らしやすさには変えられないわ」
まっすぐ歩けば家に着く。
「ちょっと待っててね」
散らかってると言ってもたかが知れている。
部屋の広さに対して物があまりない私の部屋。
玄関に彼を待たせて、掃除の詰めに疑問が残るフローリングに、さーっとワイパーをかけた。
「じゃーどうぞ、ごゆっくり」
彼を座らせると私はそう言って立ち上がり、玄関を向いた。
家の近くには24時間営業のファーストフード店がある。私はそこで夜を明かせばいい。
一晩くらい大丈夫、軽くご飯も食べたいし。
「どこ行くの?」
背中から軽く抱き締められた。
「ね、寝てていいわよ」
出来る限り冷静に返答した。
「えー一緒に寝ようよ」
……普段なら絶対に阻止するのに。
私は現実感を失っていて、
一晩くらい大丈夫、なんて思ってしまったものだから。